自分のこと(第四話)・秘宝
思考停止に陥ると人間は感情、特に欲情を野放図に口走り始めるのだろう。
気がつくと、女神に対してとんでもない言葉を口にしていた。
「あなたの腋の下の汗をください」
プロジェクト進行中の暑い盛り、若い連中がハンカチやハンドタオルを差し出し頭を下げて彼女に「おねだり」しているシーンをよく見かけた。
それを羨ましいと思いながら見ていた記憶からか、なんと品の無いことを口走ってしまったのだろうか。
もう後戻りはできない。
しかし、驚くこともなく嫌悪を顔に出すもなく彼女は言った。
「用途をお聞かせいただけますか」
「自慰行為の際に嗅がせて頂きます」
「上からの物言いで恐縮ですが、あなたは私の好きな人の部類です」
「こんなに下品な性欲剥き出しオヤジなのに?」
「ここまでプロジェクトご一緒して頂きお分かりと存じますが、私が最も嫌う人って・・・」
「質問の意図を汲み取れない人、質問に正面切って答えない人、でしたね」
「ご理解いただけていること光栄に感じます」
「毎日のようにメンバーが注意されてましたから、私も含め(笑)」
「ということで、用途につき納得いたしました」
「え、嫌ではないんですか」
「御社の皆さん、そうですよね? 弊社にも何人もいますし」
「さもありなん、とは思いますけど・・・」
「おかずにされる事を嫌がる女なんていませんよ。いや、暴論かな」
「流石、というべきですね」
「但し!」(少し潤んだ切れ長の目が私を見据える)
「はい」(反射的に私は背筋を伸ばす)
「もう二度とプライベートでは会いたがらないとコミット頂けるなら、です」
深く頷きながら私は未使用のハンカチを差し出した。
ハンカチで腋の汗を拭う姿が眩しすぎる!!!
この光景だけでも十分におかずになる!!!
・・・私は「秘宝」を手に入れた。
彼女のボトルを消費しただけに等しいながらもそれなりの金額に達したお会計を済ませ地上階に向かう。
二人だけのエレベーター。
カクテルドレスから覗く大きな乳房へと繋がる腋の下がエロすぎる!
そこを目にしてしまった途端、愚息に血流が集中した。
彼女がいつものように発する「薄い桃の香り」と相まって気がどうにかなってしまいそうだ。
下着の中が暴発寸前になっているのを感じた。
この瞬間はおそらく直近四半世紀における私の至福のピークだった。
そして、この直後、彼女をしてクロスボーダーストーカーと言わしめる私が生まれることになる・・・
(続く)