自分のこと(第二話)・極上デート
一度だけ彼女が食事の招待を受けてくれたことがある。
昨年の夏の事だ。
普段上級接待で使うところより更にランクを上げた、一人では二度と行かないだろうと確信できるところを予約した。
社内の自分のオフィスにクローゼットを持つ彼女は、おそらくいつもより少し早めに仕事を片付けてカクテルドレスで現れた。
我ながら下品な物言いだが、こんないい女と飯が食えるなんて俺は幸せだと呟いた。
流石、慣れた立ち居振る舞いだ。
何もかもがエレガントだ。
普段使う場面が無いそんな言葉すら自然と湧いてくる。
どこに行っても恥ずかしい思いをすることの無い女性とはこういうものなのだろう。
彼女の仕草は何をとってもずっと見ていたいという気持ちにさせる。
お陰で何を食べたのか、どんな味だったのかほとんど覚えていない。
しかし、私は満腹だった。
彼女で満たされていたのだ。
店を出て街場を少し歩く。
彼女はこの手の場面に慣れているのだろう。
たまに二の腕が触れ合うくらいの絶妙な間合いで少し遅れて隣を歩いてくれる。
「お時間許されるなら、もう一軒お付き合いいただけませんか」
そう尋ねながら思い切って彼女の肩に手を回した。
「お時間は許せますけど、これは許せませんよ」
肩にかかった私の手を軽くポンポンと叩きながら私の目を見据えて答える。
「ごめんなさい。調子に乗りました」
「調子には乗れても私には乗れませんからね」
このジョークだ。
会議体がどんなに険悪な雰囲気になりかかっても、いつも彼女のジョークが流れを変え、場を和ませる。
機先を制しながらも私の気まずさを消そうとしてくれる。
こんなオンナ、手放せない!
いや、必ず手に入れる!
そんな悪魔の囁きに耳を傾けている私に彼女は更に優しい言葉を投げてくれる。
「少しアルコールが足りないですよね? お付き合いいただけますか?」
私に恥をかかせないために自分から誘っているかのような物言いだ。
これができる女なんだ。
「是非!」
私は内緒で確保した一泊30万円也のスィートのあるホテルのスカイバーに絶品の女を連れて向かった。
(続く)